ない

人は獣として生まれ、寸時人間であって

また人という獣に戻ってゆく

そうであれば。そのくらい単純であればなあ

今どこだろう

神様と呟くときの柔らかくころころとした小ささ

森へ這入ったときの自分の境界の確かさと脆さ

海を見たときの夏毛のように軽く新しい懐かしさ

川に触れたときのどうしようもない強さ

街の底から見上げたときの埃っぽい安らかさ

獣の目は単に己を見ている

誰もいっさい関わり得ない力に満ちて

ただ一つの行き先だけを見ている

人間にはわからない言葉が聞こえる