午後、お勝手の東の戸からおれが、西の戸からあなたが同時に入ってきて真ん中のテーブルのところですれ違いざま、なんとなしに呼吸が合って抱擁をした。おれがあなたの肩の上から、あなたがおれのわきの下から両手をまわして、十センチばかり背の高いおれが少し体をかがめて、そうして右頬と右頬をぴったりつけて、何十秒かじっとしていた。暖房のないところにしばらく居たんだろう、ひやりとして気持ちがよかった。おれは、抱擁をしたときのあなたの匂いが好きだ。あなたは、アイスやっぱりふたつとも食べちゃった、と言って、頬を離して、両手を離して、体を離して、お勝手の東の戸から出て行った。